ウォルト・ディズニーから「まちの私有化」を考える

「本物のまち」を作りたかったウォルト・ディズニー

何が生き生きとした都市を作るのか。ロンドンのデザイン・ミュージアムの元館長で、デザイン、建築の批評家・キュレーターのDeyan Sudjic氏はThe Language of Citiesの中で、古今東西の都市を例に挙げてその答えを考察しているが、そこにウォルト・ディズニーのあまり知られていない側面が描かれている。

著者によると、ディズニーはデザイナーのバックミンスター・フラー(マンハッタンを透明なドームで覆う提案をしていた)や、ニューヨーク市開発当局のロバート・モーゼス(ジェーン・ジェイコブスによる反対運動で知られる)と親交があり、機械的に制御できるシステムとして都市を見ていた。彼の憧れは、夜間は閉園してしまうディズニーランドとは違った、本物の都市を作ることだった。1964年のNY万博では、ゼネラル・エレクトリックのパビリオンでProgresslandと名付けた未来の都市を提示している。「この新しいまちにスラムはない。なぜなら作らせないから」「住人は生涯現役。誰もが雇用されていなければならない」・・。

ディズニーの死後、ウォルト・ディズニー・カンパニーが世界的な建築家たちを動員して作った「まち」がフロリダのディズニーワールドの近くにある。Celebrationと名付けられたその区域は、2020年時点で11,000人以上が暮らし、一見すると街のように見えるが、市役所や議会などの行政法人がない。大半の土地をウォルト・ディズニー・カンパニー傘下の法人が所有しているという奇妙な場所だ。

子どもの頃にディズニーワールドで訪れたメインストリートUSA(ショッピング通り)や、トゥーン・タウン(キャラクターたちの住む街という設定で、それぞれの家がある)に通じるものがあるかもしれない。ワクワクするようなリアルさ。けれどよく見ると全てがプログラミングされ、窓も食べ物もテーブルクロスも固定され、生活感は演出に過ぎないということは子どもながらにわかる。非日常の空間としては良いけれど、そこで「生きる」ことはできない。

都市の過度な単純化と、私有化

著者は、都市を作るのは、トップダウンでテーマパークや大学のキャンパスを作るのとは訳が違うと指摘する。そして都市をこのように過度に単純化(oversimplification)する見方は、現在あちこちで見られる都市の私有化にも認めることができるという。

本の後半では、ロンドン東部の元埠頭で今は高層ビルが並ぶ金融センターとなったCanary Wharfの開発の変遷と、ロンドンの住宅価格に見る新自由主義の弊害、民主主義への希望についてページを割いて書かれている。都市を生きたものにするのは自由と自治と多様性、という著者のメッセージが伝わってくる。都市は高度に発達して自律的に動く人工知能のようなもの、というたとえが印象的だ。特定の組織の想定内に収まる「まち」への違和感と、そうした「まち」の脆弱性をうまく説明する表現だと感じる。

現在のCanary Wharfは、公共の場所に見えて、地下鉄などを除いてほとんどが私有地だという。つまり、ちょっと写真を撮るのも、ピクニックも募金集めも政治活動も許可が必要。そして、それまでの地域住民は立ち退き、どこにでもあるグローバルブランドやチェーン店が並び、高層ビルで働く人と、彼ら・彼女らに衣食住のサービスを提供する人とが互いに最低限の接触だけで生活しているようだ。

トヨタのWoven City

最近第一フェーズのお披露目がされたトヨタのWoven Cityを見て、何だかディズニーの作ろうとした街を思い出した。

公式情報には「テストコース」とある一方、将来的に2,000人以上の住民がが暮らすともあるので、「City」というのは単なる呼び名というよりも、未来の社会を提示するという意気込みの表れなのではと思う。だとすると、(私の理解がコンセプトに追いついていないだけかもしれないが)やはり新しさよりも既視感を感じてしまう。

インフラの不可視化

ニュースや広報動画によると、Woven Cityでは宅配やごみ収集を地下化するとのこと。地上で自動運転などの実験を行うので、住民の当面の生活に必要な物流などは安全のために地下の巨大空間で行うということのようだ。

けれど未来の都市を考えるとき、生活を支えるインフラや、ものの消費・分解・再生のサイクルをこれ以上不可視化するのではなく、むしろその流れともう少し繋がれるような場所にしたい、と個人的には思う。自宅で生ごみコンポストを4年弱やっているが、消費の結果を見えないところに追いやるのではなく、その循環をこの目で見届けられるというのは想像以上に心を軽くしてくれる。そんなことも含めて、自分はどんな都市に住みたいのか、考えさせられた。

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