思考のマンションを建てる

『脳の外で考える』The Extended Mind)という本を読んでいる。(正確に言うと、娘が昼寝している間、急いで洗濯物を干すときにiPhoneの音声読み上げ機能を使って読んでいる。これがなかったらこの数ヶ月全く本を読めていなかったと思う)

その中で、身体的な動きや環境が思考に影響すると書かれていて、たとえば自由な発想が必要なアイデア出しの課題で、四方を壁で囲まれたスペースで考えたグループと、壁の外の広い空間で考えた(つまり英語で「固定観念にとらわれずに考える」を意味するthink out of the boxを文字通り行った)グループでは、後者のほうがアイデアの質も量も有意に充実していたという嘘のような本当の研究結果があるらしい。

そういえば、学生時代に読んだMetaphors We Live By(『メタファに満ちた日常世界』)の中でも、抽象的な概念が実は言葉を介して身体的な感覚と結びついていると言っていた。

たとえばlook up to(尊敬する)は見上げる(look up)感覚と一体となっている。そのベースには物理的な上と下を心理的な上下関係に当てはめるメタファーも存在している。日本語でも、「持ち上げる」「へりくだる」などたくさん例がある。むしろ何らかのメタファーが隠れていない概念を探す方が難しいくらいだ。

そんなわけで、考えるときにもっと物理的なものに助けてもらってもいいのかもと思いつつ、なかなかゆっくり考えを整理する時間もなく、お散歩の時間になった。

家を出てしばらくすると娘は抱っこ紐で寝てしまい、起こさないように、スーパーの代わりに近くの川沿いの道へ向かった。江戸時代初期に運河として開削された、東西にまっすぐ伸びる川の両側は、遊歩道として整備されている。川に面して低層のマンションや倉庫が立ち並び、空が広くて気持ちがいい。

対岸を眺めているうちに、いい感じの5階建くらいのマンションに無意識に焦点が定まった。部屋から漏れている温かみのある照明が素敵だ。そこでなんとなく、脳内でとっ散らかっていた思考をマンションの部屋にあてはめてみる。

これは一階部分。これは、それを踏まえた二階部分。これも、二階部分。一階のこの部屋から派生するから、さっきの部屋のとなりだ。

これは、一階。そうか、一階のこれとこれをつなぐものが足りないんだ。あと、出口もどこかわからない。

という感じで、常々拡散系の思考を繰り返している頭の中で、なんだか構造物ができてきて、次のステップも見え、少しすっきりした。

出産して以来、机に何時間も座って、メモをとりながらゆっくり考えることはできていないけれど、それでも考えを進めることができるというのは嬉しい発見だった。むしろ時間と空間の制約があったほうが良いのかもしれない、と最近思いつつある。

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